牛タンは、実は低温調理に向いている食材だということをご存知ですか?食材を耐熱の食品用バッグに入れ、100℃以下のお湯でじっくりと火を入れる低温調理が人気です。お肉などのタンパク質は、熱を加えると固まる性質があります。しかし、高温でお肉を焼くと表面に香ばしい焼き色を付けられる一方で、タンパク質の急激な変性により水分が抜け、パサついたり、硬くなったりといった問題が生じてしまいます。
温度をコントロールしながらじっくりと火を通す低温調理は、お肉のパサつきを抑えながら、しっかりと中まで火を通せる理想的な調理法です。しかし、牛タンを低温調理する際には気を付けなければならないポイントもあります。
今回は、牛タン専門店の伊達のくらが牛タンを低温調理器具で美味しく調理する秘訣を解説します。
牛タンを低温調理するメリット
牛タンといえば、仙台名物の牛タン焼きや焼肉店の牛タンスライスを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。一般的には焼いて食べることの多い牛タンですが、低温調理でひと手間加えると、これまでとは違った牛タンの味わいに出会えます。
まずは、牛タンを低温調理するメリットを3つご紹介します。
パサつきのない、しっとりとした柔らかさを実現
低温調理で牛タンを調理すると、パサつきのない、しっとりとした柔らかさを実現できます。お肉に含まれるタンパク質(アクチン)は、66℃〜70℃を超えると急激に収縮し、肉汁が抜けて硬くなるといわれています。
低温調理器では、食中毒などのリスクを抑えつつ、タンパク質の急激な変性を避ける温度で火を入れるため、ほかの調理法では真似できないジューシーでふっくらとした牛タンに仕上げられるのです。
うまみ成分と栄養を中に閉じ込められる
うまみ成分や栄養は、加熱時に肉汁と一緒に外部に流れ出します。低温調理では耐熱のバッグに入れ、空気を抜いて温度管理をしながら調理をするため、お肉に含まれる水分が蒸発せず、柔らかさが保たれます。また、タンパク質が急激に変性する温度を避け、じっくりと低温で火を入れられることも、タンパク質の収縮による肉汁の流出を抑えられ、うまみを中に閉じ込められる理由となります。
調理の手間がかからない
低温調理器は、耐熱のバッグに食材を入れ、温度と時間を設定するだけで調理ができます。一度低温調理器にセットすれば、自動的に加熱温度と時間をコントロールしてくれるため、火加減をチェックする必要もなく、料理に慣れていない人でも簡単に美味しく調理ができます。この調理の手間がかからない点も低温調理器の魅力です。
牛タンの低温調理のポイント

誰でも簡単に美味しく仕上げられる低温調理器ですが、牛タンを調理する際には次の4つのポイントに気を付けるようにしましょう。
部位ごとの特徴を把握する
牛タンと一口にいっても体の大きな牛の舌は長く、1本の長さは30~50cm程度になります。牛タンは主に、「タン元」、「タン中」、「タン先」、「タン下」の4つの部位に分けられます。牛タンの部位ごとの特徴を把握していないと、加熱時間や加熱温度を上手に設定できません。
4つの部位のうち、厚焼きの牛タン定食などに使用されるのは、最もジューシーで柔らかいタン元です。また、焼肉店で提供されている牛タンスライスは、赤身と脂のバランスがよく、コリコリとした食感が特徴のタン中を使用することが多くなっています。
タン先とタン下は筋肉が発達している部位であり、脂肪も少なく、硬い食感になるためシチューや赤ワイン煮込みといった煮込み料理に使われるケースがほとんどです。
厚みや脂の量に注意
同じ牛タンの部位でもカットの仕方によって、加熱時間は変わります。厚みがある牛タンは、加熱時間を長めに設定しなければ、中心部分までしっかりと火を入れられません。
また、見落としがちですが脂の量によっても加熱時間や加熱温度は変わってきます。脂の多い部位の場合は温度が低すぎると、脂肪分が溶けず、口当たりが悪くなってしまいます。また、脂が少なく、筋が多いタン先やタン下などは、コラーゲン繊維をとろとろの状態にするために、比較的高い温度でじっくりと時間をかけて調理した方がよいでしょう。
完全に解凍する
精肉店などでは冷蔵状態の牛タンも販売されていますが、インターネットでお取り寄せをする場合などは、ほとんどが冷凍された状態で送られてきます。低温調理器は、冷蔵状態をベースに、中心部までしっかり火が入る加熱時間が計算されています。そのため、牛タンを解凍しないまま低温調理器にセットすると、内部まで火が通らず、加熱ムラが生じる可能性が高くなるほか、食中毒のリスクも高まります。冷凍の牛タンを低温調理する際には、必ず、完全に解凍してから調理を始めるようにしましょう。
ドリップはしっかりふき取る
ドリップとはお肉からしみ出る赤い液体のことです。ドリップには、お肉のうまみ成分やタンパク質などが含まれており、独特の臭いがします。ドリップが付いたまま調理用のバッグに入れ、調理を開始すると生臭さの原因となるため、注意が必要です。冷蔵の牛タンを使う場合も、解凍した牛タンを使う場合も、ドリップはしっかりとふき取ってから調理用バッグに入れるようにしましょう。
牛タンを低温調理で美味しく食べる方法を解説
牛タンを低温調理で美味しく食べるための調理方法を専門店の視点から解説します。
牛タンの美味しい解凍方法
伊達のくらをはじめ、牛タン専門店では冷凍の状態で牛タンを販売しています。冷凍の牛タンを解凍する際には、ドリップの流出をできる限り防ぐことが大切です。前述のようにドリップには、牛タンのうまみ成分が含まれるため、ドリップが大量に流れ出てしまうとパサつくだけでなく、うまみも感じにくくなってしまいます。
ドリップの流出は急な温度変化を避けることで軽減されるため、冷蔵庫でじっくり解凍する方法がおすすめです。ただし、冷蔵庫での解凍には時間がかかるため、調理の前日までには冷蔵庫に移しておくようにしましょう。
牛タンの下処理はしっかりと
牛タンのブロック肉を捌いて調理する場合は、下処理をしっかりと行うことが大切です。牛タンの内部に血液が残っていると、生臭さの原因となります。ブロック状の牛タンはしっかりと流水で洗い、血抜きをして、汚れや臭みを除去しましょう。
牛タンの血抜きの方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
<関連記事>牛タンの血抜きは必要?やり方や下ごしらえの基本をご紹介!
低温調理後に表面を炙る
低温調理器の代表的なメニューにローストビーフがあります。牛タンブロックも下味を付けて低温調理をすれば、ロースト牛タンを簡単に作れます。加熱後に十分に冷まし、肉汁が落ち着いたら、表面をフライパンで焼き付けると香ばしい香りと焼き色が付き、より一層うまみを引き出せます。
また、厚切りの牛タン焼きを低温調理器で加熱する際にも表面をさっと炙るようにしましょう。牛タン特有の脂が溶け出すと、表面がパリッと引き締まり、濃厚なコクを生み出します。
低温調理と圧力鍋の使い分け
低温調理器では、タン先やタン下を使った煮込み料理を作ることもできます。ただし、低温調理器を使用した場合、柔らかく仕上げるためには何時間も加熱しなければなりません。短時間で繊維質の多い牛タンの部位を調理するときには、高温と高圧で一気にお肉を柔らかくできる圧力鍋の利用も検討した方がよいでしょう。
安全面での注意点
低温調理は、ほかの調理法では難しい、しっとりとした食感を実現できると人気を集めています。しかし、加熱が十分でない場合は食中毒を招く恐れがあります。牛タンを低温調理する際には、次の点に気を付けましょう。
低温調理器具の加熱時間を守る
牛タンの低温調理をする際には、低温調理器のマニュアルやレシピに記載されている加熱時間をしっかりと守ることが大切です 。
肉の中心部が一定の温度に達した後、その温度を一定時間維持することが安全な加熱の目安とされています。例えば、中心温度63℃で30分以上、または75℃で1分以上(これと同等の殺菌効果を持つ条件を含む)などが示されています。
設定温度だけでなく、お肉の厚みや量によっても中心部まで熱が伝わる時間は大きく変わるため、調理時間には十分に注意しましょう 。
調理前後の手洗いや器具の衛生管理を徹底
加熱時間を守っても、手洗いが不十分であったり、ドリップが付着した調理器具を使用したりすると、食中毒のリスクが高まります。調理前後にはしっかり手を洗い、調理器具の衛生管理も徹底しましょう。
食材は新鮮な物を選ぶ
新鮮な食材を選ぶことは、美味しい牛タンを食べるうえでも、食の安全性を向上させるうえでも大切です。鮮度の落ちた牛タンはアンモニアのような臭いが漂い、食中毒のリスクも高まります。牛タンを選ぶ際には鮮度もしっかりチェックし、調理までしっかりと温度管理を徹底することが大切です。
まとめ
牛タンは、ただ焼くだけの食材ではありません。低温調理器でじっくりと火を通すと、これまでの牛タンとは一味違う、しっとりと柔らかな牛タンを楽しめます。
ただし、低温調理の際には、温度管理をしっかり行わないと、食中毒のリスクが生じます。牛タンを低温調理器で調理する際には、部位ごとの特徴を理解したうえで、マニュアルに従って、適切に加熱するようにしましょう。
